タイトルの通り、「DevRel」の商標がMOONGIFT社によって出願され、登録されてしまった問題について、異議申立を行った。
異議番号 :異議2024-900263
DevRel商標登録問題とは
DevRelという単語については、昨年末にも色々物議を醸したことをご存じ方も多いだろう。その件については941さんの記事が詳しいのでリンク先を参照してほしい。
本記事ではDevRelの定義については論じない。個人的には狭義のDevRel(エンジニア採用や技術広報を主目的としない) にやや賛成の立場だが、さまざまな意見があって良いと思う。
しかし、件の議論の中で気になったのは、異なる定義を唱える人間に対してまるで人格否定にまで繋がりかねない非難が行われる点、また「フリーライド」というような、誰かの所有物であるかのような表現が行われるケースがあったことだ。結果として、今や「名前を言ってはいけないあの単語」として扱う人が出てくる始末だ。
この雰囲気だったら自分は外資大手以外のtoDサービスやってない自称DevRelはエンジニアの「敵」と認識すると思う。テクニカルサポートに近い認識で話してる相手に採用の話されたくない https://t.co/URO1CY8Mvy
— mizchi (@mizchi) October 14, 2024
別にDevRelなんて名乗らず、技術広報や採用広報として活動すればいいだけ
— Atsushi@MOONGIFT (@goofmint) October 10, 2024
なんでフリーライドしたり、湾曲解釈したり、広義とかいうのか理解に苦しむ…
ちゃんとやってる人たちに迷惑だし、結果的に技術広報とか採用広報のイメージを悪化させるだけなんだけど
DevRelの解説動画で、その定義について正しく触れているのにも関わらずフリーライドと非難する始末である(なので、おそらく動画の中身すら見ずに批判している)
これが元ネタなのかな?
— Atsushi@MOONGIFT (@goofmint) October 9, 2024
正しく理解できてないのにキーワードにフリーライドするのは勘弁してほしい
本気で迷惑https://t.co/TZbOzBZ68y
動画はこちら。3:30付近を見ていただきたいが、正しく解説しているように思う。(というか、PIVOTによるダイジェストの切り抜き方が悪い)
これはとても健全な議論とは言えないし、そもそも海外で生まれた役職や活動に関する単語なのに、なぜ自分の所有物のように話すのだろう。
そこで判明したのが、DevRelという単語の商標出願だった。 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2023-103843/40/ja 2023年の9月15日に出願され、2024年の10月11日に登録となってしまっている。
正確には、かつて一度登録され、それが失効した後再度出願され、登録されたという流れだ。
昨年はもくもく会が商標出願されたり、数年前はゆっくり茶番劇が商標登録されるなど話題になったが、DevRelに関しても同じ状況となってしまった。
何が問題なのか
よくある商標ゴロと異なる点は、MOONGIFT社はDevRelという考え方の普及に貢献しているという点だ。これに対して異を唱える人はいないだろう。
だからといって商標を取るに値するかというと、それはまた別の話だろう。そもそも同社が生み出した単語では無い。これが許されてしまうのであれば、海外の新しい技術用語や分野に対して紹介するブログを書いて手当たり次第に商標を取るということがまかり通ってしまう。
例えば自分はPlatform Engineering という技術分野について早い段階から情報発信やイベントを主催を行ってきたが、じゃあこれで商標を取る資格があるかというと全くそうは思わない。仮に通ったとしても、それは誰も得をしない結果となることは明白である。
この件に関して異を唱えるポストを行ったところ、全く要領を得ない回答が返ってきた。なんだこれは
まさにそのための商標!仕事してる! https://t.co/bh2VFOqWPP
— Atsushi@MOONGIFT (@goofmint) October 10, 2024
商標不正登録に対するものか
ゆっくり茶番劇のような、不正な商標登録を防ぐ為に取得した可能性はないだろうか。
これに関しては、実際にDevRelの名の付くコミュニティを作ろうとしたところクレームを付けられたという情報があるため、そのような善の目的ではなさそうだ。
遅リプすみません。
— こぼこ@Qiita垢 (@_coboco) December 8, 2024
DelRelのコミュニティと似たようなコミュニティを立ち上げようとしたら、「DevRelという言葉を冠するのは禁止です」と例の方に言われてるので、守るための善の目的ではないのは確定しております(そのときびっくりして商標取ってるか調べた記憶があります、2019年くらいの出来事)
他にもいくつかの事例を聞いているが、もし同様の事例に当たったことがある方はブコメやXで教えてほしい。
DevRel Guildというコミュニティが2023年の9月に立ち上がったが、これは商標が切れていた時期だ。これは推測に過ぎないが、現行の商標が出願されたのはこのコミュニティ発足の数日後ということもあり、同類のコミュニティを潰すために再出願された可能性もある。
【DevRel Guildを設立しました】
— かわまた/狂気の人 (@r_kawamata) September 13, 2023
DevRelや技術広報をメインロールとされている方やEMやHRと兼務している方も含め、企業対エンジニアのコミュニケーションに携わっている方々がフラットに情報交換できるコミュニティ型Slackスペースを立ち上げました!… pic.twitter.com/cHZNhE8Z3y
そもそも不正登録に対抗する目的であれば、オープンソース商標のようにその目的と運用方法について明示する必要があると思うが、そのような動きは見られない。
同社はそのままDevRelという名前のサービスを展開している。このサービスを守るため、また同社が直接関与するイベントやコミュニティでコントロールするための商標であると考えられる。
考えられる影響
商標登録されたのは次の商品役務だ。(長いので読み飛ばして構わない)
【第9類】 電子応用機械器具及びその部品,アプリケーションソフトウェア,業務用テレビゲーム機用プログラム,電子出版物,コンピュータソフトウェア用アプリケーション(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの),電子計算機用プログラム,携帯情報端末,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,インターネットを利用して受信し及び保存することができる音楽ファイル,インターネットを利用して受信し及び保存することができる画像ファイル,家庭用テレビゲーム機用プログラム,携帯用液晶画面ゲーム機用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM 【第41類】 翻訳,賞の企画・運営又は開催及びこれらに関する情報の提供,セミナー・シンポジウム・会議・講演会・研修会・研究会の企画・手配・運営・開催及びこれらに関する情報の提供,資格検定試験の企画・運営又は実施,オンラインによる映画・画像・映像の提供,資格の認定及び資格の付与,映像の上映,表彰式の企画・運営又は開催,通訳,オンラインによる音楽の提供(ダウンロードできないものに限る。),教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),セミナーの企画・運営又は開催,映画の上映・制作又は配給,オンラインによるゲームの提供,娯楽分野における情報の提供,技芸・スポーツ又は知識の教授,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),娯楽の提供 【第42類】 アプリケーションソフトウェアの貸与,コンピュータソフトウェアの開発の分野に関する情報の提供,ウェブサイトの作成又は保守,コンピュータソフトウェアのバージョンアップに関する情報の提供,技術的課題の研究,ウェブサーバーの貸与,コンピュータ技術に関する助言,電子データの保存用記憶領域の貸与,検索エンジンの提供,電子計算機用プログラムの提供,電子計算機の貸与,機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計,受託による新製品の研究開発,デザインの考案,科学に関する研究,オンラインによるアプリケーションソフトウェアの提供(SaaS),クラウドコンピューティングを介した仮想コンピュータシステムの提供,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守 【第45類】 個人のニーズに合わせて手配や情報提供などを行うコンシェルジュの役務,ファッション情報の提供,結婚又は交際を希望する者へのパートナーの紹介,法律的事項に関する研究,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介,オンラインによるソーシャルネットワーキングサービスの提供
セミナー・シンポジウム・会議・講演会・研修会・研究会の企画・手配・運営・開催及びこれらに関する情報の提供
などは勉強会の開催など、コミュニティの活動にも影響がありそうだ。
なお審査の過程で、一度これは一般名称であると拒絶されている。その結果、次の内容については権利化を断念している。
【第16類】 印刷物,出版物,書籍,文房具類 【第35類】 企業の広告及び広報活動の企画・代行,商品・役務の買い手及び売り手のためのオンライン市場の提供,データ処理(事務処理),市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,事業の管理,ウェブサイトの検索結果の最適化,文書又は磁気テープのファイリング,経営の診断又は経営に関する助言,商業又は広告用ウェブのインデックスの作成,マーケティング,広告文の作成,書類の複製,税務書類の作成,広告業,広告用具の貸与,消費者のための商品及び役務の選択における助言と情報の提供,事業に関する情報の提供,コンピュータデータベースへの情報編集,トレーディングスタンプの発行,財務書類の作成,広告場所の貸与,求人情報の提供,職業のあっせん,人材募集,輸出入に関する事務の代理又は代行,競売の運営,新聞記事情報の提供,商業又は広告のための展示会の企画・運営 【第41類】 動画の制作,図書の貸与,図書及び記録の供覧,書籍の制作,文章の執筆,放送番組の制作,電子出版物の提供,インターネットを利用して行う映像の提供,録音又は録画済み記録媒体の複製
印刷物、出版物や企業の広告及び広報活動の企画が制約されてしまうのはかなり影響が大きいと考えられるため、いくらかはマシだったと言えよう。
とはいえ、現在の登録されている商品役務についても健全なコミュニティ運営を行っていくためには影響は免れない。
この問題を受け、部署名や役職名からDevRelを外す事例もありそうだ。そのまま名前を使い続けても直ちに問題は出ないと思うが、法務に確認してみるのが良いだろう。直ちに問題がなくてもリスクがあるのならば無用なトラブルを避けるためにDevRelの名を避けるという判断があってもおかしくはないと思う。
なぜ異議申立を行ったか
自分は普段Product Evangelistとして、自社プロダクトをSREや開発者に対して情報発信を行う仕事に就いている。これは定義としてはDevRelに合致していると思うが、自身のことをDevRelであると紹介することはあまり無い。それは、この商標問題もあるし、かつてとあるDevRelからユーザーとしてとても不快な経験をさせられたというネガティブな想いもあるからだ。
にも関わらず、何故このような異議申立を行ったかというと、これまで技術コミュニティに育てられたという想いと、今ではいくつかのコミュニティを主催する立場から、一部の企業の横暴により健全なコミュニティが阻害されるという現状がとても許容できるものではないからだ。ましてや自分の関与するカテゴリで起きているのだから、とても我慢できるものではなかった。
このまま異議申立期間が過ぎて手に負えなくなってから後悔するよりは、まずは今自分がやれることをやろうと考え、今回の申立に至った。
しかし商標の異議申し立てが認められ、取り消しに成功する可能性は極めて低い。データによると数%の確率でしかないようだ。
仮に上手くいかなかったとしても、この問題が周知され、技術用語に関する商標の在り方が議論されることには価値があると考えている。今回の件を通じて、技術コミュニティがより良い方向に向かっていく一助になれば良いなと思う。
クラウドファンディングについて
本異議申し立てに関しては、弁理士法人に依頼を行った。弁理士法人への支払いとして税込で330,000円、異議申し立てにかかる費用として35,000円(3000円 + 4区分 x 8,000円)の、計365,000円の費用が発生した。
この費用に関しては全額自己負担でも良いかなと考えていたが、有り難いことに何名からカンパをしたいという申し出をいただいた。
そこで、クラウドファンディングを通じて支援を受け付けることにした。準備が出来次第ここにリンクを掲載するので、支援したいという方はそちらからお願いしたい。